発足に寄せて
現代の社会経済システムのあらゆるレベルで、グローバル化が進んでいます。国際経済の表舞台に立って活躍している企業はもちろん、地域経済の未来も世界経済との結びつきの中で考えないわけにはいきません。このようなグローバル化の時代にあって、社会の中でたくましく生き抜いていける人材、さらには、世界・日本・地域社会・企業・コミュニティなど社会の各層でより良いシステムの構築に貢献できる人材を育てることは、今日の大学の重要な使命と言えるでしょう。
グローバル化の時代、求められる能力とは?
そのような人材に必要な能力とは何でしょうか。コアとなる能力として、まず、社会のさまざまな問題を論理的に分析して解決策を探る力が挙げられます。さらに、何が人々にとって望ましいことなのかを判断できる規範とモラルを持ち、それに基づいてより良い新しいシステムや施策を構想して提案する能力も必要です。こうした能力は、専門分野を広く、かつ深く学ぶ過程で身につけていくことができますが、一橋大学の伝統であるゼミナールと講義などを通じた母語による概念形成と深い思考力の養成が、基礎として重要でしょう。
一方で、多様な国々の人々と議論し、問題の解決策を探り、新しいシステムづくりや課題解決の施策への合意形成を進める能力も必要になります。それには、まずは相手の主張を正確に理解し、自分の考えを的確に発信できる英語力が必須です。さらに、日本と諸外国の文化や生活を理解し共感する心と、課題解決を求めて対等に議論する力を身につければ、さまざまな国々の人々とも合意形成ができるようになるでしょう。つまり、世界のなかで、自分自身と自分の立脚点である日本社会のことをよく理解し、コミュニケーション・ツールとして英語を駆使する能力が求められているのです。
経済学部の専門的な知識や考え方と、
英語のコミュニケーション能力を同時に身につける、
経済学部の「グローバル・リーダーズ・プログラム」
経済学部の「グローバル・リーダーズ・プログラム」(GLP)は、英語のコミュニケーション能力と経済学の専門的な知識や考え方の両方を、高度に修得することを可能にします。それを支えるのは、経済学部独自の基礎から発展・応用までの体系的なカリキュラムと、海外の大学で博士(Ph.D.)学位を取得し、また海外で豊富な教育経験を持つ多数の教員です(Ph.D.取得者は現在30名います)。
経済学部・経済学研究科では、早くからカリキュラムの国際化に取り組んできました。欧米の大学で広く行われている授業科目のナンバリングを導入し、学修の段階に応じた履修が可能となる、学部から大学院修士課程までの6年一貫教育カリキュラムを整備しています。また、外国人教員によるアカデミック・ライティング能力とプレゼンテーション能力を養成する授業を開講し、専門科目の一部で英語による授業を実施してきました。
「グローバル・リーダーズ・プログラム」は、これらの実績を踏まえてデザインされています。1~2年次には、全学共通の英語スキル科目に加えて、経済学部独自の英語スキル科目を提供します。経済学の基礎科目は、日本語と英語(外国人教員が担当)の両方で開講されるようになります。まず日本語で専門的内容を理解した上で、次に英語で同レベルの内容を学ぶといったことも可能になり、英語による授業を無理なく履修できることでしょう。母語による概念形成と思考力を基盤としつつ、異なる言語で専門を学ぶことによって思考の幅を広げ、専門的知識のより深い理解と活用へとつなげていきます。
短期海外調査への参加、1年間の長期留学で
グローバル経済の現場感覚を磨く
一方、英語による基礎ゼミナールには、英語スキルを磨くゼミと、専門を学ぶゼミの両方が開講され、それぞれ双方向的かつ集中的な学習が進められます。さらに、新興国や欧州への短期海外調査に参加することでグローバル経済の現場感覚を磨くとともに、基礎ゼミにおける調査前後の綿密な研究と英文報告書の作成により、世界のさまざまな問題の解決に向けた考え方と分析方法を修得できます。
3~4年次には、外国人のプログラム・コーディネーターの手厚い指導とサポートのもと、1年間の長期留学が実現できます。また、英語で開講される経済学専門科目を大学院科目も含めて多数履修することで、英語スキルと専門的知識・能力の双方を同時に高めることができます。こうして学部4年間で、経済学部専門科目の単位の6割以上を英語による授業で修得するなど、プログラムの要件をすべて満たした学生には、Honors Degree(優等学位)として「グローバル・リーダーズ・プログラム修了証書」が授与されます。
意欲のある多くの学生が、Honors Degreeを目指して切磋琢磨し、これからの社会に貢献し得る人材として巣立っていくことを期待しています。
2013年2月13日 経済学部長・経済学研究科長(〜2012年度) 蓼沼 宏一