ミラノでのエピソード

GLOBAL LEADERS PROGRAM Faculty of Economics 経済学部長・経済学研究科長(2013年度〜) 石川 城太

2013年4月に、経済学研究科長・経済学部長に就任した石川です。このコラムでは、自分の経験などに基づいて、グローバル化に関するメッセージを随時発信していきたいと思います。

ミラノでのエピソード~何がコミュニケーションにとって重要か~

学会報告や調査などで海外に行く機会が多いが、実は途上国より先進国の方が英語が通じないのではないかと思うことが結構ある。ここ数年毎年東南アジアの国々に調査に行っているが、現地で英語が通じなくてラチがあかなかったということはほとんど無い。しかし、イタリア、スペイン、フランスといった国々では、英語が通じなくて困ったことが多々ある(ただ、昨年パリを久しぶりに訪れ、以前よりも英語が格段に通じるようになっていて驚いた)。たとえば、これらの国々では、駅で列車の切符1枚買うのにも往生するといったことが度々あった。しかし、よく考えたら、これは日本に来る外国人にも言えることかもしれない。

大学院生のころ、イタリアのミラノに赴任した同級生を訪ねたことがあった。彼の家に泊めてもらって、一人でフィレンツェまで日帰り観光に出かけた。フィレンツェでの観光を無事終え、フィレンツェ発ミラノ行きの列車に乗り込むところまではよかったのだが、発車5分ほど前になって、突然車内放送が入り、乗客が降り始めた。もちろん車内放送はイタリア語で全く分からない。とりあえず自分も降りて何事かと確かめようにも、英語の通じる人がいない。片っ端から声をかけて、やっとのことで英語の話せる人を見つけて事情を聞くと、ストライキのためこの列車はキャンセルになるらしいとのこと。頭の中が真っ白になったが、結局、大幅に遅れるもののその列車がミラノまで行くことを突き止め、事なきを得た。

ミラノといえば、次のような思い出もある。10年以上前になるが、ミラノにあるボッコーニ大学で集中講義を担当したことがあった。家内と当時1歳半の息子と一緒に大学の宿舎に2週間ほど滞在したのだが、その宿舎の管理人の中で英語を話せる人はたった1人しかおらず、それも15時には帰宅してしまう。ある日ふと気がつくと、トイレットペーパーが切れている。しかし、すでに15時を過ぎており、言葉は通じない。和伊辞書も持っていない。そこで思いついたのが、息子のために日本から持っていった絵本の中にトイレの絵を探すことだった。運良くトイレットペーパーが載ったページを見つけ、管理人にそれを指さすことで事なきを得た。

このとき、ミラノでは、主に観光客を相手にするようなレストランやお店ではもちろん英語は通じたものの、多くの店ではイタリア語しか通じなかった。幼児を連れての頻繁な外食もままならず、また幼児故に大量の洗濯物が毎日でる。しかし、母親は強い!お店に単身乗り込んでは、ボディーランゲージで、子供に食べさせる食材を毎日調達してきた。たとえば、肉屋で鶏の真似とかをしていたそうである。また、コインランドリーでの洗濯機と乾燥機の操作手順もミラノに着いて2日目には完璧にマスターしていた。これも身振り手振りを駆使して、そこにいた人から教えてもらったそうだ。要するに、コミュニケーションにおいては、言葉よりもまず相手に伝えようとする意志、そして相手を理解しようとする意志の方が重要である。

ちなみに、イタリアは幼児にとても優しい国だと感じた。路面電車の乗り降りではベビーカーの上げ下ろしを周りにいる人が必ず手伝ってくれたし、幼児を連れてレストランに入っても嫌な顔一つされることもなかった。

イタリアは、食事もおいしいし、見所もたくさんある。もっと英語が通じて、もっと治安がよければ言うことないのだが。

2013年6月 経済学部長・経済学研究科長(2013年度~) 石川 城太

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