発足に寄せて

SHIBUSAWA SCHOLAR PROGRAM Faculty of Commerce and Management 商学部長・商学研究科長 三隅隆司

一橋大学商学部では、2013年度以降の入学者を対象に、一橋大学の建学の精神やCaptains of Industryとしての役割を、国籍や言語にかかわらず体現し、世界経済やアジア経済、日本経済の発展に資する人材を育成することを狙いとした教育プログラムを始めました。このプログラムでは大学2年次に約15名の学生を選抜し、国際的なビジネスの世界で活躍できる人材を育成します。当該プログラムの設置を契機に商学部さらには一橋大学全体のグローバル人材の育成を促進していきます。

真のグローバル・ビジネス・リーダーを育成するために

我々が育てようとしているロールモデル(理想の人材像)は、本学の建学にも大きくかかわった渋沢栄一です。彼は日本の産業化の草創期にフランスに渡航し、株式会社制度をはじめとするさまざまなビジネスの仕組みを学び、それを日本で実現・普及させることに尽力しました。彼は500社を超える企業の設立に関与した企業家であり、その中には現在でも日本経済の中核となっている企業も少なくありません。また彼は商業教育や女性教育、福祉事業などにも力を注ぎました。ビジネスを、単なる金儲けの手段ではなく、経済や社会の発展を支える牽引力ととらえ、ビジネスを通じて経済や社会の発展に努めた人物でした。さらに日米経済人の相互理解のための交流を通じて日米間の貿易摩擦を解消するために奔走したり、中国で起こった水害への対応のために義捐金を集めるなど、民間外交を通じて、日本と世界の関係改善に尽力しました。

我々は、渋沢栄一が明治期に果たした役割を、現在の混沌とした時代において担える人材、換言すれば、世界の経済、社会および企業に対する深い問題意識、高い志と溢れる情熱、直面する課題を主体的に解決するための能力や意識を兼ね備えた真のグローバル・ビジネス・リーダーを育てたいと考えています。一見無関係に見える異質で多様な人や能力を有機的に結びつけ、新たな価値の創造を導く”触媒”としての役割を果たせる人材こそがこの時代には求められています。こうした我々の思いを込めて、一橋大学商学部のグローバル・リーダーズ・プログラムは、「渋沢スカラープログラム (SHIBUSAWA SCHOLAR PROGRAM) 」という名称にいたしました。

世界のどの地域・文化圏にあっても、経済、社会および企業の発展に貢献できる人間力や 論理的思考力、分析力を育成する、商学部の「渋沢スカラープログラム」

渋沢スカラープログラムでは、世界のどの地域においても、異なる文化的バックグラウンドを有する他者と人的ネットワークを構築し、積極的に議論を重ね、直面する課題に対して主体的に解決策を提示し、それを実行することを通じて、経済、社会および企業の発展に貢献できる人間力や論理的思考力、分析力を育成するため、さまざまな講義を設置しています。商学部の学生は、プログラムへの選抜に先立つ大学1年次に、全員が夏・冬のそれぞれの学期に週2回、英語を母語としない者に対する英語教授の資格や経験を有する教員による英語コミュニケーション・スキル科目(Practical Applications for Communicative English.通称PACE)を学ぶことが求められます。さらにプログラムに選抜された後には、そうしたコミュニケーション・スキルとしての英語を学ぶとともに、英語で行われる入門的な商学・経営学の講義を受講します。

また英語コミュニケーション・スキルばかりではなく、「21世紀の渋沢栄一」にふさわしいさまざまな能力を身につける機会も提供します。具体的には、世界を舞台に実際に活躍しているビジネスリーダーとの対話,ビジネスや研究の最前線で国際的に活躍する実務家や教員によるセミナーへの参加、といったプログラムがそうです。これらの教育プログラムはすべて、一橋大学の伝統である少人数教育をベースとしています。

さらにこの教育プログラムに参加するすべての学生は短期・長期の海外留学やさまざまな企業・機関でのインターンシップを経験することになります。こうした教育プログラムを通じて、日本、アジアさらには世界の経済や社会の発展に、ビジネスを通じて貢献する「21世紀の渋沢栄一」「21世紀のGlobal Captains of Industry」を育成することを目指します。

2013年3月 商学部長・商学研究科長 三隅隆司